メールマガジン「実践!作文研究」
第27号(2000.7.30)


論理的思考を鍛える「さくぶん情報誌」
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 メールマガジン「実践!作文研究」
 第27号 2000年7月30日発行(毎週日曜日発行)

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−−1.はじめに−−
                  「実践!作文研究」編集長
                          松田善啓

 みなさんこんにちは。夏休みをいかがお過ごしでしょうか。
 さて、今回のリレー連載は、上條主幹の登場です。「作文教育活
性化のための5つの提言」を紹介します。たくさんご意見が集まれ
ば、HPでも意見交換をしたいです。それが、作文教育の活性化に
つながっていくと考えています。ぜひ、ご意見をお願いします。

         ◆     ◆     ◆

−−2.リレー連載・作文教育あれこれ−−

        『メールマガジン「実践!作文研究」』編集主幹
                          上條晴夫

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作文教育活性化のための5つの提言
−異質なものと交流する力を!−
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(1)ネット社会の「生きる力」とは?

 完全にインターネットの魅力にはまっている。
 機械音痴のわたしが仲間と一緒に『教師のためのインターネット
仕事術』(学事出版)という本まで出した。組織の壁を超えたやり
とりが確実に増えている。「異質の交流」が多くなった。
 こうした「ネット(異質交流)社会」が広がる背景には単なる技
術革新だけでない人間関係を中心とした社会変化がある。たとえば
学級崩壊の場で子どもたちは「みんな違ってみんなよい」と本気で
考えている。無前提の「みんな仲良く」が否定されている。
 いまネット社会に必要な「生きる力」とは何か。ポイントになる
のは「自分とは考え方の異なる他者とコミュニケーション」をする
力だろう。つまり異質なものと交流をする力である。
 
(2)ネット社会に必要な作文教育5つの提言

 作文教育の「不振」が言われて久しい。
 文部省が力を入れて「作文」の旗を振っても、「漢字・計算」の
基礎学力派の勢力に押されがちである。つまり「作文」は確かに大
切かも知れないが、「漢字・計算」はもっと大事だという。
 漢字・計算が不要とは言わない。しかし今、最も緊急かつ深刻に
必要とされるのは「自分とは考え方の異なる他者とコミュニケーシ
ョンする力」、その基礎としての作文ではないだろうか。以下その
生きる力の養成に必要な作文教育の枠組みを提案したい。

 1.ビジネス文章を作文のモデルにする。

 大内善一氏が提唱する「コピー作文」という方法がある。
 コピー作文とは「広告文・宣伝文」をモデルとした作文指導法で
ある。このコピー作文は「手軽に書ける」「表現の工夫が楽しめる」
などの点が現場に受けて全国的に広まっている。
 しかしコピー作文の本当の革新性は「手軽さ」「表現の工夫」で
はなく「ビジネス文章」を作文のモデルにした点にある。
 従来の作文指導のモデルは文学(私小説)にあった。自分の生活
を「素直に」書く作文が一般的だった。しかしこうした自己告白の
作文を子どもたちは嫌っている。わたしの姪っ子は小学生のときに
教師から作文の宿題が出ると、決まって母親にお手伝いを所望した。
そして、さも日常のことのように作文に書いていた。
 そろそろ子どもの書く作文のモデルを「文学的文章」から「ビジ
ネス文章」にシフトしてはどうだろう。あるいは「わたし」を前面
に押し出す従来の作文に親しんできた者にはやや物足りない印象を
受けるかも知れない。しかし「自分とは考え方の異なる他者とのコ
ミュニケーションとしての作文」にはむしろビジネス文章をモデル
とした作文を書かせるほうがよいと考える。
 たとえば「パンフレット」「仕事報告文」「マニュアル文」「企
画提案書」「電子メール」などの文章である。高橋昭夫著『仕事文
の書き方』(岩波書店)やバーバラ・ミント著『考える技術・書く
技術』(ダイヤモンド社)などで示されている文章である。

 2.三ブロック型を基本に構成指導をする。

 メールマガジン「実践!作文研究」(第14号)で「論理的な文
章−「起承転結」モデルの検討−」という文章を書いた。
 約二〇年。書けない子をなくす作文指導、子どもが熱中する作文
指導の方法を考え続けてきた。前から疑問だった文章構成の標準に
なっている「起承転結」モデルの是非を考察した。学者の論文にも
まだまだ「起承転結」は残っているが、論理を意識した文章では
「起承転結」はモデルとして不適であると結論づけた。
 企業研修講師の西部直樹氏は新入社員に論理的文章を書くように
要求すると、相変わらず「起承転結」をモデルにする人が多いとい
う。学校教育では論理的な文章の構成法まで「起承転結」の構成で
書くように指導している人が多くて困ると嘆いていた。
 深刻な例を挙げれば、大学入試の小論文の採点である。「序論・
本論・結論」の三ブロック型で採点す教師と「起承転結」の四ブロ
ック型をモデルに採点する教師がいる。混乱がある。

 3.「なぜなら」を意識した作文を書かせる。

 日常会話では「なぜなら」がしばしば省略される。
 全国教室ディベート連盟の教育・普及の担当としてディベートを
指導する機会が多いが、意見の後に根拠を言えない人が少なくない。
これは「日本人を長くやっている人」ほど根拠が言えない。日本が
伝統的に根拠を省こうとする「察しの文化」だからだろう。
 しかし「自分とは考え方の異なる他者」を意識したコミュニケー
ションでは「根拠を伴った主張」が基本である。たとえば異文化・
多民族のアメリカでは日常会話でも頻繁に「ビコーズ」が登場する。
あまり「ビコーズ」を頻繁に使うので「カズ」と略語が生まれるほ
どである。アメリカ人に言わせると「ビコーズ」は対等な人間同士
なら、ごく当然のマナーであるという。
 いまインターネットの世界で「ネットバトル」と呼ばれる激しい
口論が問題になっている。ネット上では肩書や年齢などの一般のコ
ミュニケーションで採用されるコードが隠される。言葉と言葉がナ
マで激突するためにバトルになりやすい。このバトルの原因として
日本流の「根拠を伴わない主張」の多さが考えられる。
 主張をしたら必ず根拠をつける。そうした「対等な人間観」に基
づいた作文を作文教育の中でも育てたい。ちなみに「なぜなら」の
ある文章こそ「論理的な思考」のある文章と言える。

 4.「エピソード力」を活用する。

 一方通行でない作文では「エピソード力」が必要である。
 マーシャ・クラッカワー著『英会話−語学力より話題力−』(青
春出版)に次の一節がある。「日本での話しぶりを聞いていて、一
つ気づいた“型”があります。自分の体験をまず初めに相手に披露
することは、ほとんどないですね。だしぬけに『独身ですか』など
と個人的な質問が飛び出してきます」。
 一般に説得的な議論をするには証拠資料が大事である。たとえば
ディベートでは「統計データ、事実報告、専門家の見解」を証拠資
料として使う。証拠資料で根拠を強くする。ディベートの国・アメ
リカでは日常会話やテレビCMなどにもそうした証拠資料が頻繁に
登場する。数字を使って説得力を高める工夫も少なくない。
 ただし、いつも証拠資料という訳にはいかない。証拠資料がない
場合には自分の体験をエピソードとして語る。その体験を証拠に自
分の主張の正しさを主張する。作文でも論理や説得を意識した場合
には証拠資料や体験を意識的に書き込む指導が必要だろう。
 論理的と言うと、すぐに理屈だけの作文になりがちであるが、そ
れだけでは十分な説得力は得られない。伝統的な生活文のノウハウ
を論理的な作文の中で積極的に活用するとよい。「エピソード力」
は論理を武装するのに強力な武器と言える。

 5.ゲーム的手法で学ばせる

 いま作文にコミュニケーションの要素が大事である。
 流行の言葉で言えば、「伝え合い」である。従来の作文指導では
書くだけ書かせて読み手のいない作文があまりにも多かった。
 教師だけが言い訳のように読む作文が中心だった。
 しかし読者のいない作文は的の描いてない壁に向かって必死にボ
ールを当てようとするのに似ている。力のコントロールのしようが
ない。作文がどう読まれるのか。作文で相手にどう働きかけるか。
その点が分かっていないと書き方の工夫もしようがない。
 こうした「読み手不在」の状況を打破する方法の一つとして作文
指導にゲーム的手法を持ち込むとよい。たとえば一番単純な方法は
グループごとに読み合わせをして、代表作品を選び出し、発表会を
する。代表者を選び出すプロセスが読み手を作り出す。
 また、よくある作文ゲームで「わたしは誰でしょう」タイプのも
のがある。ある「もの」を作文で描写して、そのものを皆で当てる
ゲームである。この「わたしは誰でしょう」では、ものを正確に描
写したり説明したりする力を向上させる訓練ができる。
 
(3)作文教育を広げる構想を!

 作文教育を広げるには構想が必要である。
 よい実践は少なくない。たとえば貝田桃子著『創作し伝え合う国
語科授業』(学事出版)には「新聞投書」「連句あそび」「一行詩」
「コピー作文」など「軽さ」と同時に「コミュニケーションとして
の作文」という観点が正しく意識されている。
 しかしいま裾野の広がりこそ必要である。上記五つの提案がその
ヒントになれば幸いである。「作文教育の危機は大きい」。

【今回の執筆者のプロフィールです】

 上條晴夫(かみじょう はるお)
 小学校教師を経て、文筆・評論活動に入る。
 現在、『授業づくりネットワーク』編集代表、全国教室ディベー
ト連盟常任理事、学習ゲーム研究会代表、メールマガジン『授業づ
くりネットワーク21』『実践!作文研究』『議論批評研究会通信』
『メディアリテラシー教育研究会通信』編集主幹。
 著書・編著著に『見たこと作文でふしぎ発見』『作文指導10のコ
ツ』『作文指導20のネタ』『子どもを本好きにする読書指導50のコ
ツ』『「勉強嫌い」をなすく学習ゲーム入門』『教師のためのイン
ターネット仕事術』(以上、学事出版)、『授業でつかえる漢字遊
びベスト50』『実践・子どもウォッチング』(民衆社)他。

         ◆     ◆     ◆

−−3.ホームページ進化情報−−

○上條さんの論考にも紹介されている貝田桃子さん著『10分ででき
 る創作し伝え合う国語科授業』(学事出版)を、「作文指導のた
 めの本」に掲載しました。

http://www.jugyo.jp/sakubun/info/book/teach.html

         ◆     ◆     ◆

−−4.編集後記−−

 次回は、池内清さんの連載「作文キーワード事典」をお送りしま
す。お楽しみに!

○作文に関する情報・感想等をお待ちしています。感想等は本紙や
 WEBサイトで紹介させていただきくことがあります。
○無断転載をお断りします。転載希望の方はメールでご相談を。
○本誌への読者登録・解除・アドレス変更はこちら。
 http://www.jugyo.jp/sakubun/magazine/
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 『ウィークリーまぐまぐ』の登録・解除等はこちら。
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発行責任者 松田善啓 yo_mazda@nifty.com
編集主幹  上條晴夫 haruo.kamijo@nifty.com
まぐまぐID:0000023841
HP: http://www.jugyo.jp/sakubun/
(C)実践!作文研究 2000
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