メールマガジン「実践!作文研究」
第172号(2003.5.25)


学力問題としての作文教育を考える
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 メールマガジン「実践!作文研究」
 第172号 2003年5月25日発行(毎週日曜日発行)
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−−1.はじめに−−
                  「実践!作文研究」編集長
                          松田善啓

 みなさんこんにちは。
 今回は田中幹也さんに執筆して頂きました。
 作文の評価に関する論考です。深く考えさせられました。みなさ
んからのご意見・ご感想をお待ちしています。

       ◆       ◆       ◆

−−2.「努力とトレーニング」で<作文評価力>を!−−
                       北海道・中学校
                         田中 幹也

 突然ですが、次の2つの作文を読み比べてください。

引用開始

<作品A>

  女の子ですもの


 「ゆかたの君は すすきのかんざし……。」

 こんな歌の文句を口ずさみながら、長い髪をピンで上にとめ、ス
リップ姿になった。

 男子がはいったあとなので、女子としては抵抗があるらしく、は
いらないなんていう人も出てきている。また卓球に夢中になって、
おふろなんて耳に入らない人までいる。おかげで、おふろはちっと
も混んではいなかった。修学旅行最後の入浴なのに、どうしてみん
なはいりたがらないのだろう。こんな疑問がわいてきたが、タオル
を手にするわたしの気持ちは軽かった。

 そしてみんな、おのおの恥ずかしそうにからだをタオルで隠し、
大きなおふろにはいっていった。

 「わあ、やっぱり大きなおふろだわ。」中にはいったとたんの第
一印象である。やせっぽっち、おでぶさん、同じ十四歳の女の子が、
それぞれのからだを洗っている。「キャー」「キャー。」水を自分
のからだにではなく、人の顔にかけて楽しんでいる人もいる。静か
に自分のからだをながめながら洗っている人もいる。私はもちろん
前者に属する。

 鏡を見ながら、せっけんで顔を洗っていると、きのうの入浴のこ
とを思い出した。きょうと同じように、せっけんで顔を洗っている
と、不意に佐藤玲子ちゃんが私に言った。「若いうちに、せっけん
で顔を洗うと、肌が荒れるよ。」そんなことを前にも聞いたことが
ある。家では、せっけんは使わない。いつも○○クリームをつけて
いる。でも今度の旅行には持ってこなかった。なぜかといえば、そ
のクリームをバッグにいれようとした時に、母に、「荷物になるか
らだめよ。」と言われたからである。もしかして持ってきていたら、
いつものようにそのクリームのCMを、おふろで歌っていたかもし
れないなー、などと思いながら、ひとりで思い出し笑いをしていた。

 「あーあ、のぼせたなー。」

 みんな真っ赤な顔をして上がってきた。わたしの顔も鏡で見ると
トマトみたいだ。そして着換えながら、すっかりぬれたタオルをし
まい、旅行最後の入浴に別れを告げた。


<作品B>

  女の子ですもの


 「住吉中学校の女子、おふろにはいって下さい。」という先生の
連絡が聞こえてきた。

 男子がはいったあとなので、女子としてはちょっぴり抵抗がある
らしく、はいらないなんていう人までいる。また卓球に夢中になっ
て、おふろなんて耳にはいらない人までいる。修学旅行最後の入浴
なのにどうしてはいりたがらないのだろう。こんな疑問がわいてき
たが、洗面用具を手にする私の気持ちは軽かった。

 「ゆかたの君は すすきのかんざし……」こんな歌の文句を口ず
さみながら、長い髪をピンでとめ、スリップ姿になった。みんなお
のおのはずかしそうにタオルでかくし、大きなおふろにはいってい
った。わたしも一応は女の子だ。みんなと同じようにしておふろに
はいっていった。「ワア、やっぱり大きなおふろだわ。」中に入っ
たとたんの第一印象である。

 ヤセッポッチ、おでぶさん、同じ十四歳の女の子がそれぞれ体を
洗っている。「キャー」「キャー。」水を自分の体にではなく、人
の顔にかけて楽しんでいる人もいる。静かに自分の体をながめなが
ら洗っている人もいる。わたしはもちろん前者に属する。

 「あーあ、のぼせたナー。」みんなまっかな顔をして上がってき
た。そして着替えて、すっかりぬれたタオルをたたんでしまいなが
ら、旅行最後の入浴に別れを告げた。

引用終了(ただし、原文の段落間を一行空けた)

 作品Aと作品Bは、どちらも同じ生徒が書いたものです。どちら
かが「指導前」で、どちらかが「指導後」の作品です。

 さて、ここで質問です。どちらが「指導後」の作品でしょうか。
みなさん、どうぞお考え下さい。その際、根拠もお考え下さい。

 実は、この2つの作品は、今年の1月に行われた十勝国語サーク
ル主催の研修会で、相澤秀夫氏(宮城教育大学、元文部省国語教科
調査官)が紹介してくださった作品・発問です。

 そのときは、「国語で討論やディベートをするならば、このよう
に国語的に考えさせるような論題・題材が望ましい」という提案の
もとでの紹介でしたが、私は「作文評価」そのもののに関心を持ち
ました。

 どちらが「指導後」の作品かという問いを考えるには非常に複雑
な要素が入り込んできます。その教師がどんな「作文観」を持って
おり、どんな作文スキル、評価規準をその時間に設定しているかに
よって答えが変わります。

 しかし、次のような質問だとどうでしょうか。

「どちらの作品が『よい作品』ですか。」

 今回の私の趣旨は、この答えを考察することではありません。私
が提案したいのは、この答えを作文指導者がかなりの程度まで根拠
とともに判断を一致させる必要があるのではないか、ということで
す。そのための「努力とトレーニング」を作文指導者は行う必要が
ある、ということです。

 その先端を走っているのが、「第4回実践!作文オフ会」の「作
文評価研究」だと思います。しかしながら、こういう「努力とトレ
ーニング」は、<先端>だけではダメで、<末端>で盛んに行われ
る必要があります。

 作文指導者のみなさん、まずは近くのお1人に声をかけて、実際
の作品を1つ取り出し、根拠つきの評価を出し合ってみませんか?
やっていくうちに「かなりの程度まで根拠とともに判断を一致させ
る」ことができると思います。

 昨年の夏、アメリカへ視察研修に行ったとき、エッセイ(小論文)
のための「ルーブリック」という評価規準表を見ました。小論文に
おいて、「何がどの程度できていれば評価はこうだ」というものが、
課題を出されたときから生徒の手に渡っています。そして複数の教
師で評価をします。

 つまり、アメリカでは作文評価において「かなりの程度まで根拠
ともに判断を一致させ」ています。

 それが生徒や保護者へのアカウンタビリティを保つことにもなり
ます。

 こういう「ルーブリック」のようなものを、「輸入」で取り入れ
るのでなく、「努力とトレーニング」で自前で作る努力が必要だな
と考えています。

追伸:

 作品Aと作品B、どちらが「指導後」の作品かということについ
ては、相澤氏は答えを教えてくれぬまま、笑顔だけを残して去って
いかれました。謎のままです。

 私はAだと判断します。皆さんはいかがですか?

【今回の執筆者のプロフィールです】

田中幹也(たなかみきや)
    北海道清水町立清水中学校教諭
    研究集団「ことのは」
    教育実践サークル「お茶しましょ」
    鍛える国語教室十勝支部代表
    授業づくりネットワーク会員
    日本言語技術教育学会会員

       ◆       ◆       ◆

−−3.編集後記−−

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 ていて、まぐまぐで3000部を突破することが殿堂入りの条件です。
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                 (3部・今回で終了)

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発行責任者 松田善啓 yo_mazda@nifty.com
HP: http://www.jugyo.jp/sakubun/
(C)実践!作文研究会 2000,2003
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