メールマガジン「実践!作文研究」
第14号(2000.4.30)


論理的思考を鍛える「さくぶん情報誌」
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 メールマガジン「実践!作文研究」
 第14号 2000年4月30日発行(毎週日曜日発行)

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−−1.はじめに−−
                  「実践!作文研究」編集長
                          松田善啓

 みなさんこんにちは。「実践!作文研究」第14号をお届けしま
す。今週号は編集主幹の上條晴夫氏の登場です。上條氏が開発した
作文指導システムである「見たこと作文」などでは「予告・事実・
考察」の3段階での作文指導が多く、私自身も小学校での作文指導
では、どちらかというと「起承転結」よりもこの3段階の指導法を
採っています。みなさんはいかが?ご意見・ご感想、お待ちしてい
ます。

         ◆     ◆     ◆

−−2.リレー連載・作文教育あれこれ−−

        『メールマガジン「実践!作文研究」』編集主幹
                          上條晴夫

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  論理的な文章−「起承転結」モデルの検討−
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(1)文章は「起承転結」で?

 メーリングリストを中心にしたある研究会で「文章は起承転結で
書くように心がけています」という一文にぶつかった。
 文学的な文章なら「起承転結」もありえるが、その研究会では論
理的な文章による情報交換を行っていた。そこでけっこう自信満々
で「論理的文章では『構成』は起承転結ではなく『予告・理由(事
実)・結論』の三部構成が一般的のようです。若干の混乱はありま
すが、『起承転結』は文学的文章に使われる構成法と考える方がよ
いと思います」という短いコメントを書いた。拙著『困ったときの
研究レポートの書き方』(学事出版)を書く時にあれこれリサーチ
して「研究レポートは、四ブロック構成ではなく、三ブロック構成
がよい」と書いていたからである。
 ところが、これにこれに対して「このご指摘には異論があります。
大学の恩師(社会学)が論文はすべて起承転結で書く人でした」。
次のように「『起承転結』を使えば,論理的文章になるのではない
でしょうか」という返信コメント文をいただいた。

  起:自らの問題関心から論を起こす。
  承:それを承けて,これまでの研究成果や議論を整理する。
  転:ところで・しかしなどと転じて,新しい研究成果や議論,
    自らの調査結果などを踏まえて考察する。
  結:「だから 〜 だ」と結ぶ。

 このコメントをいただいて改めて「起承転結」モデルで論理的な
文章を書くことについて検討の必要性を感じた。とくに大学の先生
が「起承転結」モデルで論文を指導している点に軽いショックを受
けた。

(2)「起承転結」モデルをめぐって

 1 「起承転結」モデルを巡る伝統的なバトル

 拙著の中で先の発言を書いた時の参考文献に次の二冊がある。

 ●澤田昭夫著『論文の書き方』(講談社学術文庫)
  *「起承転結を論文に応用されては困る」(104P)
 ●保坂浩司著『レポート・小論文・卒論の書き方』(同上)
  *「(起承転結は)文章の最高の叙述方式だ」(P54)

 同じ文庫で「起承転結」モデルを巡るバトルが行われていた。二
つの議論を真剣に読み比べた。論理的な文章に「起承転結」モデル
は有効か。この問いに波多野完治著『現代のレトリック』(小学館)
が次のように答えていた。「『起承転結』は、中国で『詩文学』に
用いられた順序である。つまり、それは『論』ではないのだ」。
 さらに波多野氏は次のようにも言う。

 「日本の作文教育では、いまでも、起承転結を教える。小学か中
学のどこかで、これが教えられない場合はまずない。ということは、
日本の作文教育は、『随筆』や『紀行』など、文学の伝統をしょっ
ている、ということである。ヨーロッパのレトリックでは、随筆も
書かせるが、主として練習するのは、自分の考えを相手にわからせ、
納得させることである」。

 自分とは考えの異なる他者とのコミュニケーションとして文章を
考え始めていたわたしは波多野論文を読んで、「いまこそ日本の作
文教育は『起承転結』から抜け出す必要である」と考えた。

 2 花井等氏の「序論・本論・結び」の原則

 拙著の出版後、花井等著『こうすれば論文はできあがる』(ネス
コ)を手に入れた。国際政治学者の花井氏が五年間のアメリカ留学
生活で身につけた論文作成法を書いた本である。(上述の澤田氏も
アメリカの大学院に学んでいる)。以下、三箇所の引用をする。 

 「漢詩は起・承・転・結という四つの句からなっている。起で詩
想を提示し、承でそれを承け、転で詩の情景や気分、話題などを変
える。最後に結でまとめるというものだ。エッセイもこの『起・承
・転・結』の原則で構成するが、論文は違う」
 「論文・レポートは問いに対する答え、考えという内容でなけれ
ばならず、そのためには『序論・本論・結び』の原則が適用される
必要がある。序論ははしがき、序、序言ともいわれ、論文・レポー
トのテーマや全体を通じた姿勢、考え方などが示される。結びは結
論や結語といってよく、論文・レポートのまとめとテーマに関連し
た問題など今後研究していくべき課題などを示す。本論は分量から
も論文・レポートの大部分を占め、いくつかの章・節に分けられる」
 「序論を起に、本論を二つにわけて承と転にし、結びを結にする
というようにいわれることもあるが、これは文章論と論文・レポー
トの原則を無理につじつまをあわせたものといえよう。序論で問い
かけ、結びはそれに対する答えとしなければならない論文・レポー
トなのに、これでは序論と結びがまったく分離してしまう。あくま
で『序論・本論・結び』の原則を守らなければならない」

 前出の保坂氏も「これ(起承転結)は、もともとは、中国の詩の
作法から来たものですが、わが国の古人たちは、文章造りの智恵と
して鋭く受けとめました」と書いている。そして「起承転結」否定
派の議論を「真剣に読んでみて」「私の論理方式を打破するものが
なにひとつ出ていない」という。ただし保坂氏は「文学的な文章」
と「論理的な文章」を一緒にして分けて論じていない。

 3 木下是雄氏の見解

 理科系学生のバイブル『理科系の作文技術』(中公新書)の著者
・木下是雄氏は言う。「わたしは起承転結を好む。文学的効果の故
でなく、論説でもいったん立場を変えて相手の所論を見直すことが
大切だと思うからである」。論理的な文章に「起承転結」モデルを
勧めているようにも読める。しかし『日本語学』(1998・2/
明治書院)の文章を読むとどうもそうではないらしい。

 「ハインツたち(注:米国のレトリック研究者)は起承転結を日
本語の散文一般の修辞法と受け取っている。事実また日本の文科系
の論文には起承転結型のものも散見するようだが、この修辞法が
(国際的に通用する意味での)論理的な文章の要件に反することは
明らかである」
 「起承転結は優れて文学的効果を持つ文章の組み立て方ではある
が、論理的であるべき文章、例えばレポート・論文のたぐいにこれ
を適用してはならないのである」

 『理科系』には、理科系の仕事文書の代表「原著論文」の伝統的
な構成は「起承転結」と似ていた。それが「世の中が忙しくなるに
つれて」論文も重点先行主義になった。それで「序論・本論・結び」
が一般的になったように書いてある。論理的な文章と「起承転結」
モデルの関係が曖昧だったのが、上の文章でハッキリとした。
  
(3)ロックインと小論文指導

 現在、一般的に使用されているパソコンなどのキーボード配列は
速く打つための並び方として必ずしも合理的ではない。最初にキー
ボードが作られた時、打ち間違いが生じないようにわざと打ち難い
配列にしてみんなそれで使い始めた。現在では誤打が発生しないよ
うな技術水準に達しているが、合理的な配列では売れない。
 一度あるタイプに多くの人が使われると、そこから抜け出せなく
なる現象がある。複雑系の科学ではこれを「ロックイン」と呼ぶ。
わたしは「起承転結」モデルもロックイン現象の一つではないかと
考えた。なぜなら「起承転結」モデルを使っても学者としての仕事
である「論文書き」が成立しているからである。
 ただし今回のリサーチで一つ気になったのは小論文指導で定評の
ある樋口裕一著『ぶっつけ小論文』(文英堂)が(「起承転結」で
はないが)四部構成をとっていたことである。もしかして大学の小
論文入試ではいまでも「起承転結」モデルで書かないと合格率が下
がるというようなことがあるのかしらと下世話なことを考えた。

【今回の執筆者のプロフィールです】

 上條晴夫(かみじょう はるお)
 小学校教師を経て、文筆・評論活動に入る。
 現在、『授業づくりネットワーク』編集代表、全国教室ディベー
ト連盟常任理事、学習ゲーム研究会代表、メールマガジン『授業づ
くりネットワーク21』『実践!作文研究』『議論批評研究会通信』
『メディアリテラシー教育研究会通信』編集主幹。
 著書・編著著に『見たこと作文でふしぎ発見』『作文指導10のコ
ツ』『作文指導20のネタ』『子どもを本好きにする読書指導50のコ
ツ』『「勉強嫌い」をなすく学習ゲーム入門』『教師のためのイン
ターネット仕事術』(以上、学事出版)、『授業でつかえる漢字遊
びベスト50』『実践・子どもウォッチング』(民衆社)他。

−−3.ホームページ進化情報−−

 毎週日曜日にこのメールマガジンを発行すると同時に、先週号を
ホームページに載せています。今回も、第13号を掲載しました。
ぜひお読みください。
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         ◆     ◆     ◆

−−4.編集後記−−

 次号(No.15)は、池内清さんの「作文キーワード事典」をお届け
します。お楽しみに!

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発行責任者 松田善啓 yo_mazda@nifty.com
編集主幹  上條晴夫 haruo.kamijo@nifty.com
まぐまぐID:0000023841
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